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頸動脈狭窄とは(CAS)について

■頸動脈狭窄症とは
頸動脈狭窄症と脳梗塞には密に関わりがあります。脳梗塞の発症に関して首やアゴの高さでの内頸動脈にその原因が存在する場合があり、それは内頸動脈の内腔が狭くなる(頸動脈狭窄といいます)ことによります。頸動脈狭窄は動脈硬化により血管の壁に粥腫(じゅくしゅ:プラークとも言います)が形成されるために厚くなり、血管の内腔が狭くなってしまいます。動脈硬化は高血圧、糖尿病、脂質異常症や喫煙や過度の飲酒といった生活習慣病が原因で起こるとされております。内頸動脈は直接脳の動脈へと移行するため、この部の病変は脳の病気に直結します。 頸動脈狭窄症は以前は欧米人に多い傾向にありましたが、近年では日本においても食事の欧米化や運動量の低下などが背景にあり頸動脈狭窄症の患者さんが増えて来ています。



■診断
頸動脈狭窄症の診断は超音波検査(エコー)、頭頸部MRI&MRA、造影剤を使用したCT検査(CT angiography)、脳血管撮影検査(カテーテルを使用した検査)などがあります。超音波検査やMRI検査は造影剤やカテーテルを用いないため、低侵襲な検査です。最近では脳ドックにおいても頸動脈の検査を行う施設が増えてきました。

■超音波検査
内頸動脈の狭窄の程度に限らず、粥腫の性状や狭窄があると上昇する血流速度を測定することができ侵襲も極めて低いため最も有効な検査法です。正常の頸動脈での血管壁の厚み(実際には内中膜複合体を指します)は1.1mm以下です。これを越えると粥腫形成と判断します。また、粥腫には脂肪や血液成分に富み柔らかくもろいもの、弾性線維に富むもの、石灰化に富む固いものなど様々です。頸動脈の血流速度は正常では37±13cm/sといわれております。川の流れも同様ですが、幅の広いところから狭いところに移行すると流体の速度は上昇します。頸動脈が50%の狭窄では150cm/s、70%の狭窄では200cm/sがおおよその血流速度の目安です。

■頭頸部MRI&MRA
頸動脈の狭窄の程度や粥腫の性状などが分かります。それ以外にも脳実質の急性期梗塞あるいは陳旧性梗塞の有無や動脈硬化の指標となる深部白質病変の程度などが分かります。造影剤を使用しないため非常に低侵襲な検査です。

■CTを用いた血管撮影(CT angiography)
造影剤を注射してCT検査を行います。空間分解能に優れているため狭窄の程度を詳細に評価できます。外来で行える検査です。

■脳血管撮影検査
カテーテルを用いて行う検査で、侵襲度は一番高くなります。それゆえに一番最初に行う検査ではなく、治療を前提とした場合に行われる必須の検査といえます。頸動脈狭窄の程度を正確に測定できるだけでなく、頭蓋内への血液の流れや側副血行路の有無の確認などが可能です。またこの検査には後述する頸動脈ステント留置術において、カテーテルを使用した手術が安全に行えるかどうかの事前確認の意味もあります。

症状
頸動脈狭窄が軽度の場合は無症状で経過することが多いです。狭窄が高度となると脳梗塞や一過性脳虚血発作を発症し麻痺や言語障害などの症状を呈します。重症例では意識も障害されます。これらの機序は2通りあります。1つには狭窄が悪化することで脳への血流が低下する場合です。もう1つは粥腫が破綻することによる粥腫の内容物や狭窄部で生じた血栓が脳血管へと血流に乗って迷入し詰まらせてしまうことによります。

治療
治療には内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療では動脈硬化の促進因子となる生活習慣病の治療に加え、血小板による血栓を予防するために抗血小板剤を内服します。抗血小板剤には主にアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールが用いられています。基本は1剤を内服しますが、重症例などでは2剤併用することもあります。
外科的治療には直接切開を加えて粥腫を除去する頸動脈内膜剥離術(CEA)とカテーテルを用いた血管内治療で狭窄部にステントを留置する頸動脈ステント留置術(CAS)があります。
今までの大規模臨床試験の結果60%以上の狭窄病変に対しては、症候性であっても無症候性であっても内科的な治療のみよりも頸動脈内膜剥離術と内科的治療を組み合わせた方が、その後の脳梗塞を起こす確率が低くなるという結果が出ています。また、無症候性の場合でも80%以上の狭窄では直達手術での成績が良いとされています。
 しかし、直達手術である頸動脈内膜剥離術は全身麻酔が必要とされ高齢者や心不全や呼吸不全を合併している患者さんには侵襲が大きな手術となります。また、狭窄部位が高かったり(内頸動脈の分岐がより頭側であり下顎のあたりにある)、反対側の内頸動脈にも高度狭窄を有する場合、過去に一度直達術を行った部位の再狭窄などに関しては直達術が困難となり危険度が高くなります。このような場合はカテーテルを用いて行う血管内手術が選択されます。

血管内治療:内頸動脈ステント留置術(CAS)
内頸動脈ステント留置術(CAS)は2008年4月に我が国において正式に保険適応となりました。これまで行ってきた直達手術と異なり、カテーテルを用いて血管の内側から狭窄部位に到達しステントを留置する、いわば切らない手術として浸透しました。現在は直達手術の高リスクの症例が対象となっており、症状を呈する場合は50%以上の狭窄において、症状が全くない場合は80%以上の狭窄において血管内手術が行われています。
この手術の合併症として脳梗塞が一番に挙げられます。次いで、血流が回復することにより脳の血流が相対的に過剰となる過灌流症候群を呈することがあります。脳梗塞の合併症はおよそ5〜10%程度といわれていますが、当院では2008年以降に施行した100例近い手術成績では約4%と低い合併率でした。

手技の実際 内頸動脈ステント留置術は局所麻酔で行うことができます。施設によっては全身麻酔で行っておりますが、局所麻酔で手術ができるという長所を生かし、当院では例外を除いて全例局所麻酔で行っております。局所麻酔ですので術中に患者さんの意識や神経症状の確認などが行えることも利点です。
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1 カテーテルは足の付け根の太い血管(大腿動脈)から挿入しますが、3mm程度の太さのカテーテルを用います。このカテーテルをレントゲンで透視を見ながら狭窄部位(治療部位)の手前の総頚動脈まで誘導しておきます。このカテーテルの中を治療用の風船の付いたバルーンカテーテルやステントなどを通して治療します。

2 手術中の脳梗塞合併症を回避するために、狭窄部位よりも遠位側(頭側)に、血栓や粥腫が壊れた事により飛散する塞栓源をブロックするためのフィルターあるいは風船を予め誘導しておきます。これらは手術の最終段階で回収(取り除くため体内には残しません)します。

3 狭窄の度合いが強い場合は、ステントが通らないことがありますので、ステントを留置する前に少しだけバルーンカテーテルにて狭窄部位を広げます。これを前拡張といいます。

4 いよいよステントの留置です。ステントは金属性の形状記憶を有したメッシュ状の筒です。このステントは専用のカテーテルの中に折りたたまれた状態で狭窄部を通過させ留置します。ステントの太さを予め設定しており、ステントはその径まで広がろうとする力を有します。しかし、実際には血管の堅さや反発力によりステントが100%広がることはありません。

5 狭窄部でのステントの広がりが悪いときには、やや太めの(当院では3.5mm-4.5mm程度)のバルーンカテーテルをステントの内側から誘導し、狭窄部位を6-8気圧でゆっくりと広げます。

6 専用の吸引カテーテルにて最初に誘導した遠位側のフィルターあるいはバルーンの手前に飛散した血栓や粥腫などの塞栓源を吸引して取り除きます。その後、フィルターあるいはバルーンを回収します。

7 最後に足の付け根を専用の器具にて止血し終了となります。

当院で行った実際の症例
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急性脳血管閉塞へ
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