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脳動静脈奇形(AVM)について

■脳動静脈奇形(Arterio-venous malformation; AVM)とは
脳動静脈奇形という病気は先天性であると考えられ、すなわち母体の中にいる胎生3-4週頃に発生し生まれた時には既に持っていると考えられています。脳動静脈奇形の自然発生は12.4人/100万人/年といわれています。  脳の血液供給は、酸素や栄養を含んだ圧の高い動脈血が、毛細血管という細い血管を介して脳の細胞に分配され、その後に脳の細胞から二酸化炭素や老廃物を圧の低い静脈血として心臓へ戻る循環動態が正常のパターンです。毛細血管は圧の高い動脈血から圧の低い静脈血へと移行する際の物質の交換場所であると同時に動脈系と静脈系の圧差を調整する緩衝作用があります。
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しかし、この毛細血管が欠落し、圧の高い動脈血が圧の低い静脈血へ直接吻合してしまう奇形があり、その吻合部には拡張した血管が塊(Nidusナイダスと呼びます)を作っております。 動脈→毛細血管→静脈といった正常構造ではなく、動脈→ナイダス→静脈という異常構造を持った疾患を脳動静脈奇形といいます。動脈血が直接静脈に流れ込むために静脈圧が高くなり拡張します。この静脈をred vein(赤い静脈)と呼び脳動静脈奇形に特徴的な血管です。

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■症状
部痛や嘔吐など)と、AVM破裂による脳出血に伴う脳局所症状(手足の麻痺や失語症など)であり、全体の40-60%を占めます。統計学的には、未治療のまま経過観察した場合、毎年2-3%の割合で出血を生じるといわれております。次いで多いのはけいれん発作で全体の30-50%程度です。頻度は高くありませんが脳梗塞や慢性頭痛が生じたり、眼窩や側頭部などでの拍動性血管雑音や、特に小児では循環不全に伴う心不全などもこの疾患の症状として挙げられます。

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■治療法
この疾患の治療法は、開頭手術や放射線治療、血管内手術などの組み合わせによる集学的治療を行うため、一概にこの患者さんには開頭術、この患者さんには血管内治療などと振り分けることはできません。 血管内治療のみで完治できるのはおよそ10%程度であり、多くは開頭手術や放射線治療(ガンマナイフ)を組み合わせて行います。病巣の部位、大きさ、形態によりグレードを決定し、そのグレードをもとにして、患者さんにとって最も負担の少なく、また治療効果が高いと思われる治療法を組み合わせて行うことが重要です。

・開頭手術
開頭による脳動静脈奇形を取り除く手術です。顕微鏡を用いた手術で、正常脳からナイダスを剥がして摘出します。完全に取り除くことにより、治療直後から出血の危険を回避でき、根治が望めます。しかし正常脳との分離が困難なことがあり、そのために難易度の高い治療法といえます。

・血管内治療
非常に細いカテーテルを用いて行う手術です。開頭を必要としませんし脳を触ることもありませんので低侵襲であることが特徴ですが、血管内治療のみで完治できる脳動静脈奇形はおよそ10%程度です。その為、開頭手術やガンマナイフの治療がより安全かつ効果的に行えるようにするための補助的な役割を担っています。塞栓術は後の開頭術における手術時間の短縮、出血量の軽減、手術合併症の減少、神経学的長期予後の改善に寄与すると考えられています。 細いカテーテルをナイダスに入り込む栄養血管(動脈)へと送り、固体や液体の塞栓物質を用いて塞栓することで血流を低下させたりナイダスの体積を小さくしたりします。個体の塞栓物質にはプラチナ製のコイルを用います。液体塞栓物質には医療用の接着剤であるNBCAやポリマーであるOnyxなどが多く用いられます。近年Onyxが日本でも使用可能となり、脳動静脈奇形に対する血管内治療効果が飛躍的に向上しましたが、その使用には一部制限があり、使用できる施設が限られていることと(当院は使用可能です)、開頭術に対する前処置としてのみ使用可能となっております。

・集学的放射線治療
ガンマナイフやサイバーナイフなどを用いた治療です。集学的放射線治療での完全閉塞率は65-84%といわれています。脳動静脈奇形のサイズが小さい場合や重要な神経機能を司る部位に存在する場合に有効な方法です。脳や血管に触れることなく治療できますので、侵襲が最も低く開頭術が不利な症例で行っています。放射線治療には即効性は無く、動静脈奇形が完全に消失するためには2-3年かかることがあります。完全に消失するまでの出血リスクは未治療時の自然歴と同様で年間2-3%あります。ナイダスのサイズが小さな動静脈奇形に有利であり、血管内治療でサイズを縮小させた後に放射線治療を行うことがあります。

                        
■当院での治療症例
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血管内治療にて塞栓術を行った。ナイダスは縮小した。その後開頭手術にてナイダスの摘出術を行った。
出血量も少なく安全に治療を行うことができた。

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