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脳動脈瘤について

■脳動脈瘤とは
脳の血管のコブ状の膨らみの事を脳動脈瘤と言います。ほとんどの動脈瘤は無症状のまま一生を経過しますが、動脈瘤がいったん破裂すると「くも膜下出血」という重篤な病気へと豹変します。 くも膜下出血は脳卒中の代表的な疾患の1つであり、誰もが聞き慣れた名前であると思いますが、放置すると70%近くの人がお亡くなりになる大変怖い病気です。突然の激しい頭痛と吐き気に襲われ、重症な場合には意識がなくなり、初回の出血で約20%の人が死亡します。 最近では脳ドックやMRI検査を受ける機会が多くなり、成人日本人の3-6%に脳動脈瘤が存在することが分かってきました。この状態での動脈瘤を未破裂脳動脈瘤(破裂していない=出血していない)と言います。
image未破裂脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血となる確率は、動脈瘤のできている場所や大きさによって異なりますが、おおむね年間の破裂率としては1%未満であると言われています。年間の破裂率ですので年々積み重なっていくと考えられ、10年間で考えるとこの間の破裂率は10%程度になると言われています。 脳動脈瘤に対する外科的治療として1970年代以降、開頭クリッピング術が世界的な標準的治療として普及しています。 しかし、近年では動脈瘤に対するより低侵襲な治療として血管内治療であるコイル塞栓術が開頭クリッピング術と並び標準的な治療として選択できるようになってきています。 動脈瘤コイル塞栓術は1990年に脳神経外科医であるGuglielmiらによるプラチナ製の柔軟なコイルが開発されたことで急速に発展しました。
現在日本国内では20種類以上のコイルが使用可能です。

2002年にはLencetという世界的な権威ある論文にて報告されたInternational Study of Aneurysm Therapy(ISAT)において破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術と血管内治療による手術成績が比較されました。 破裂動脈瘤2143例を無作為に開頭手術群1070例と血管内治療群1073例に振り分け治療成績を追跡しました。その結果、動脈瘤コイル塞栓術は開頭クリッピング術と比較して同等あるいは一定の条件下ではコイル塞栓術に有意性があるという結果になりました。 動脈瘤コイル塞栓術 足の付け根の動脈より2-3mm程度のカテーテルを挿入して行います。さらにそのカテーテルの内側よりマイクロカテーテルと呼ばれる細い管を動脈瘤の中に送り込みます。マイクロカテーテルの中に治療用のプラチナの糸(コイルと呼びます)を送り込み、動脈瘤の中で1本1本順々に糸を巻くようにして丸めていき切り離して置いてきます。1本1本安全を確認しながら動脈瘤の中にコイルを充填していき動脈瘤の中に血液が入らなくなると塞栓が完了して治療が終了となります。
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この治療法の長所は以下の通りです。
①開頭する必要がなく、脳を触らずに治療ができる
②開頭術では難易度の高い脳深部の動脈瘤にも安全に治療できる
③治療中に脳血流を確認できる
④開頭しないので手術時間が短い、入院期間も短い
⑤繰り返し治療できる

動脈瘤の入り口が広い場合、マイクロカテーテル単独でコイルを送り込むと、コイルが動脈瘤から正常な血管へとはみ出てしまう事があります。正常血管へコイルがはみ出すと脳梗塞合併の原因となり回避しなければなりません。 このように入り口が広い動脈瘤の場合は、バルーン(風船)を用いて動脈瘤の入り口からコイルが飛び出さないようにブロックします。バルーンはコイルを巻いている時のみ膨らまし、コイルを巻き終えたらしぼめます。 また、2010年より日本でも血管再建機器(VRD)といったステントを使用できるようになりました。ステントとは金属でできているメッシュ状の筒であり、非常に柔軟で血管の内側にフィットし、動脈瘤の入り口の土台となります。このステントによりコイルが正常血管へ落ち込むことを防いでいます。このステントが使用できるようになり、今までコイル塞栓術が困難であった症例も治療可能となりました。現在日本国内では2種類の特徴の異なるステントが利用可能となっております。将来的には更に開発された優れたステントがたくさん登場することが予測されます。
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■ステントを用いて治療した当院での実際の症例
ステントは肉眼的には見えにくいが、ステントにより親血管の内腔が保たれている。
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