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2.虚血性疾患
硬膜動静脈瘻(d-AVF)について

■硬膜動静脈瘻とは
脳が頭の骨(頭蓋骨)の中にあるというイメージは、誰にでも容易にお持ちいただけるものと思われます。しかし、実際には頭蓋骨から脳へ達するまでには脳の表面から頭蓋骨に向けて順に軟膜、くも膜、硬膜という3つの膜が脳を覆っております。これら3つの膜を一括して髄膜と呼びます。その中で硬膜というのは最も頭蓋骨側にある言葉の通り硬い膜のことで、厚みもあり繊細な脳を守る役割があります。硬膜を更に細かく見ると、2層構造となっており硬膜そのものを栄養する固有の動脈を持っております。また2層構造の中には静脈洞という頭蓋内の静脈が心臓へ血液を戻すために流れ込む太い川のような構造物があります。
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硬膜動静脈瘻という疾患は、何らかの原因により硬膜の持つ固有の動脈が静脈洞と直接吻合した状態(瘻を形成した状態)をいいます。圧の高い動脈系が圧の低い静脈系へと流れ込みますので、静脈洞内の圧が上がり静脈系のうっ滞(スムーズに流れることできず流れが滞ること)が生じます。静脈系のうっ滞により静脈は拡張し、時には逆流を呈することにより、脳内出血やけいれん発作、部位によっては目の充血や眼球突出、拍動性の血管雑音あるいは認知症様の症状など多彩な臨床症状を呈します。 硬膜動静脈瘻の発生頻度は0.29人/10万人/年間と言われており、成人疾患のほとんどが後天性であると考えられております。

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異常な動脈が硬膜を介して静脈洞と瘻を形成する。静脈洞は圧の高い動脈系の血液が流れ込み、それゆえに静脈洞内がうっ滞し、圧が高まる。 その結果、本来は静脈洞に注がれるはずの正常な静脈血が逆流し、静脈潅流障害が生じる。静脈は拡張し、脳の周囲が腫れてきたり、血管が破綻して出血を起こすことがある。

■硬膜動静脈瘻の発生場所
海綿静脈洞が日本人では最も多く全体の40%程度といわれます。次いで横‐S状静脈洞部が30%程度となります。その他、上矢状静脈洞や舌下神経管部、小脳テントや前頭蓋底部などが頻度は低いですが発生箇所として報告されています。

■海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻
我が国では最も多い発生場所です。特に中高年の女性に多く発症します。海綿静脈洞は内頸動脈が頭蓋内に入る直前(頭蓋外)の高さで目の奥のあたりに存在している静脈の網目状構造物です。脳の一部や眼球からの静脈が海綿静脈洞に送り込まれて合流し、上下錐体静脈洞などから出て心臓へと送られています。 原因としては外傷によるもの(外傷性)と原因不明のもの(特発性)があります。 内頸動脈や外頸動脈といった動脈の一部が、海綿静脈洞と異常な吻合を生じることによって発生します。 主な症状は眼瞼結膜の充血(病側の白目が赤くなる)、眼球突出、拍動性の血管雑音などがあります。物が2重に見えることや眼瞼(まぶた)が下がっていることで気づく場合もあります。

■横‐S状静脈洞部硬膜動静脈瘻
我が国では2番目に頻度の多い部位です。頭蓋内における静脈洞の最終コーナーにあたる横静脈洞‐S状静脈洞に異常な動脈が直接吻合することで発生します。最も特徴的な症状は拍動性の耳鳴(心臓の鼓動と一致したザーザーという耳鳴)ですが、その他にも臨床症状は多彩であり脳内出血に伴う脳局所症状(麻痺や失語など)や痙攣発作、認知症様の症状を呈することも少なくありません。

■治療法
近年ではカテーテルを用いた血管内治療が標準的治療として行われております。静脈洞に入り込む異常な動脈側から治療をする経動脈的治療、あるいは、うっ血している静脈側から治療をする経静脈的治療があります。これらを組み合わせて行うこともあります。血管内治療で完全に治せない症例においては開頭術を行ったり、ガンマナイフによる放射線治療が行われます。 経動脈的治療では静脈洞に入り込む異常な動脈に1本1本順にカテーテルを送り、プラチナ製のコイルあるいは医療用の接着剤であるNBCAを用いて塞栓します。異常な動脈は細かいものを含めると複数存在することもあり、経動脈的治療だけで根治するケースは多くありません。 経静脈的治療は異常動脈の入り込む静脈洞に静脈側からカテーテルを送り込み、異常動脈が吻合している(瘻の部位)部を含めて静脈洞を塞栓します。それにより、無数に入り込む異常な動脈の流入を一網打尽に消失させることができます。経静脈的治療は根治を望める治療法であり、この疾患の第一選択となります。

■当院で治療した実際の症例
・内頸動脈海綿静脈洞瘻
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・左横-S状静脈洞部硬膜動静脈瘻 image


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